父がある日、こう言った。
「新しい家に引越しをするよ」
と。
私はその時多分、小学校4年生ぐらいだったのではないかと思う。
正確には覚えていない。
私たちは昭和のサラリーマン家庭にありがちな転勤族で、家族でそれまでにもたくさん引っ越しをした。
私が覚えているだけでも3回ある。3歳年上の兄はそれプラス2回は経験していると思う。
高度成長期の真っ只中で、決して今のような豊かさはなかったにしても生活は上向きで、大人はささやかながらも夢を持っていたのではないかと思う。人々は明るく生きる不安もなかった。
そんな時代だ。
少なくとも私の家庭はそんな感じだった。
だからマイホームが持てるという当時のサラリーマンにとっては最高の幸せが掴めることになって嬉しそうにしていた父親の側にいて、私も子どもながらにとてもワクワクしていた。
世の中では子どもが増え、区画整理が頻繁に行われていた頃でもあったし、私はそれまでにも小学校は2回変わっていた。
だから、その時3校目の小学校への転校ということだったがあまり抵抗はなかったし、とにかく新しい土地で「新しい家」に住めることがとても嬉しかった。
父からそう知らされて以来、週末になると、母の希望が組み込まれて設計された家がどのぐらいできているか、家族で見に行くようになった。
まだ山のてっぺんに一軒だけがポツンと立っている状態だったけれど、周りの空き地を探検したり、近所にある木に登ったり、おてんば娘だった私にとってはなんだかとても楽しかったこと、覚えている。
とても平和な日々だった。